カレンダーは5月。ゴールデンウィークも後半。
本州ではそろそろ「暑い」とか言い始めているころ、北海道はまだ「今日、手袋いる?」という会話が成立している。
そう、北海道の5月は春と冬が仲良く共存している。
いや、正確には仲良くではなく、どちらが主導権を握るかでひっそり争っている。
そしてだいたい、朝晩は冬が勝つ。
でもこの「どっちつかず」な季節が、北海道の5月の最大の魅力なのだ。
まず気温の話をしよう

5月の札幌、日中の気温は10〜15度前後。「春らしい」と言えば言えるが、「暖かい」と言い切るには少し勇気がいる温度帯だ。
晴れた日中は「あ、春だ」と感じる。
でも日が傾くと空気がひゅっと冷たくなる。朝は「やっぱり上着いるな」となる。これが毎日続く。
さらに厄介なのが、北海道は広すぎて同じ「5月」でも場所によって全然違うことだ。
道央(札幌あたり)では最低気温が10℃を超える日が増えてくる。
一方、道東(釧路・網走あたり)では5月でも最低気温10℃以下の日がほとんどで、コートや手袋がまだ現役だ。
つまり、道東の人に「5月は春だよ!」と言うと「え、そう?」という顔をされる。
これは北海道あるあるだ。
自然はちゃんと動いている(人間だけがモタモタしている)
人間が「寒いな」「でも5月だしな」とモタモタしている間に、自然界はとっくに動き出している。
まずは花。
エゾヤマザクラが4月下旬〜5月中旬に咲き、それを追いかけるように梅が咲き(北海道では桜より梅が遅れてやってくる)、カタクリ、エゾエンゴサク、水仙と、次々と春の花が登場する。
本州では2〜3月から長々と続く「春の花シーズン」が、北海道では5月にぎゅっと圧縮されて一気に展開される。
花たちが「もう待てない!」と一斉に咲き出すような、そんな勢いがある。
鳥もうるさくなってくる(良い意味で)。
朝、窓を開けたら聞いたことのない声がしていた——というのが5月によく起きる。
クロツグミ、コサメビタキ、渡り鳥たちが次々と北上してきて、木々の声が一気に増える。
双眼鏡がなくてもいい。ただ窓を開けて、しばらく耳を澄ます。
それだけで「あ、春が来てる」とわかる。鳥たちは正直だ。

「リラ冷え」という、美しい名前の意地悪な現象
5月の北海道を語るうえで避けて通れないのが、**「リラ冷え」**という言葉だ。
リラとはライラックのこと。
5月下旬から6月上旬にかけて、オホーツク海高気圧からの冷たい空気が流れ込み、暖かかった日々の後に突然ひんやりした空気がやってくる。
それがちょうどライラックの咲く時期と重なるため、「リラ冷え」と呼ばれるようになった。
「ライラックが咲いてるのに寒い」という現象に、ちゃんと名前がついている。
これが北海道のすごいところで、「寒さ」をポエティックに命名してしまうのだ。「
花冷え」という言葉は全国区だが、「リラ冷え」は北海道限定。
使えるタイミングは5月下旬〜6月上旬のみという、非常に希少な語彙だ。ぜひ覚えておいてほしい。
ちなみに今年のさっぽろライラックまつりは5月20日〜31日の開催。
まつりのまっただ中に「リラ冷え」が来ることも十分あり得る。
祭りで薄着になっていたら突然寒くなった——という体験をした人は、翌年から「あれがリラ冷えか」とわかる。一度経験すれば忘れない。
短い春だから、ひとつひとつがくっきり見える
本州の春は長い。梅から始まって、桜、藤、あじさいと、何ヶ月もかけてバトンが渡されていく。見逃しても次がある。
北海道の春は短い。雪解けからライラック、そして緑まで、体感で2〜3週間ほどで駆け抜ける。見逃したら終わる。
でもだからこそ、変化がくっきりと見える。「昨日まで枯れ枝だったのに、今日は芽が出ている」。
そういう瞬間を、日常の中でちゃんと捕まえられるのが北海道の春だ。
本州の人が「えっ、もう桜終わったの?」と言う間に、北海道ではその後に梅が咲き、チューリップが咲き、ライラックが咲く。春の密度が、とにかく高い。
5月の北海道、何を見て何を感じるか
最後に、5月の北海道自然を楽しむための実用メモを。
花を見るなら エゾヤマザクラは4月下旬〜5月中旬。芝桜(滝上・東藻琴)やチューリップ(上湧別)は5月中旬以降。南から北、低地から山へと順に開花が移動していく。
鳥を聞くなら 早朝が勝負。5月は日の出が早く、鳥たちは夜明け前から活動している。目覚まし代わりに窓を開ける、という贅沢な使い方ができる季節だ。
服装を選ぶなら 日中と朝晩の寒暖差は10度近くになることもある。「脱ぎ着しやすい上着1枚」が5月の北海道の正解だ。半袖で出かけて凍えたという話は毎年どこかで聞く。
リラ冷えに備えるなら 5月下旬以降、ライラックの香りがしてきたら要注意。翌日あたりに急に冷えることがある。北海道の自然は詩的な形で警告を発してくる。
冬と春がまだせめぎ合っている、北海道の5月。
夏になれば北海道の良さはもっと多くの人に伝わる。
でも個人的には、この「どっちつかず」な季節を知っている人が、北海道の本当のファンだと思っている。
急かされるように夏になる前の、この短くてひんやりした春を、ぜひゆっくり味わってみてほしい。
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