最近、札幌の街を歩いていると「ガレット」という単語をやたらと見かける。専門店がぽつぽつとオープンし、メニュー看板には見慣れないフランス語風の料理名が並んでいる。
道民にとって「そば粉」といえば、これまで蕎麦一択だったはずだ。それが気づけば、薄く焼いた生地にハムやチーズ、半熟卵をのせるという、なんともおしゃれな食べ物として街に浸透しつつある。「うちの実家は蕎麦畑をやっているのに、いつの間にそば粉がこんなおしゃれ料理に化けたんだ」と、ちょっとした戸惑いを覚える道産子も多いのではないだろうか。

実はブルターニュと北海道、思ったより近い間柄だった
ガレットはもともと、フランス北西部・ブルターニュ地方の郷土料理だ。小麦が育ちにくい痩せた土地で、代わりにそばを育てて食いつないできた歴史があるという。
これを知ったとき、思わず「あれ、それってうちらの土地の話じゃないか」と膝を打ってしまった。北海道もまた、道内各地でそばの産地として知られ、深川をはじめとする道産そば粉のブランドが確立している。しかも、フランスでガレットと一緒に飲まれることの多いシードル(りんごの醸造酒)についても、余市など道内のりんご産地で作られている。
つまり北海道は、知らず知らずのうちに「日本のブルターニュ」になるだけの材料をフルセットで持ち合わせていたということになる。今まで気づかなかった自分たちの土地のポテンシャルに、地元民として静かに驚かされた。
「そば粉=蕎麦」呪縛から解放された日
道民の食生活において、そば粉は基本的に「蕎麦にする」以外の使い道をあまり想像してこなかった。年越しそばや、ちょっとしたお昼ご飯といえば蕎麦、というのが刷り込まれた感覚だ。
それが今、同じそば粉を薄く伸ばして焼き、ハムやチーズ、道産豚肉のロースハムなどを豪快に包んでナイフとフォークでいただく、という全く違う食文化として提示されている。初めて食べたときは、「これ、蕎麦のスピンオフ作品だよな」と勝手に親近感を覚えつつも、見た目も食べ方もまるで別物という、なんとも不思議な感覚を味わった。
「なんとなくフランス人になった気分」で食べる休日
ガレットとシードルのセットを注文すると、なぜか背筋が伸びる。実際には普段着でふらっと入っただけなのに、皿の上のガレットとグラスの中のシードルを前にすると、「今日の自分はちょっとブルターニュ地方の農家気分」で過ごしてしまう。
これは完全に錯覚なのだが、そば畑とりんご畑が両方とも身近にある土地に住んでいるからこそ味わえる、ある種のリアリティなのかもしれない。パリジェンヌ気分とはまた違う、「道産子のフランス風休日ごっこ」とでも呼ぶべき新しい楽しみ方が、静かに広がりつつある。
この先、道内の食卓にどこまで根付くのか
専門店が増え始めているとはいえ、まだ家庭の食卓に「今日はガレットにしよう」という発想が定着しているわけではない。とはいえ、そば粉とシードルという材料が両方とも身近に揃っている土地は、実はそう多くない。
このまま北海道ならではの新しい食文化として根を張っていくのか、それとも一過性のブームで終わるのか。道産そば粉の生産者としても、道民の食卓を預かる立場としても、しばらくはこのガレットの行方を興味深く見守っていきたい。

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