6月中旬に、手稲山からの容赦ない強風に備えて百均資材でガッチリと本支柱を組み上げてから、我が家の菜園の主役たちは、もはや「勢いが増した」という生易しい表現では追いつかないレベルで爆走しています。
本州からはジメジメとした梅雨入りや大雨のニュースが聞こえてくる季節ですが、ここ札幌はカラッと爽やかな初夏の青空が広がる、一年で最も瑞々しく気持ちの良いベストシーズン。本州の「梅雨(つゆ)」がない北海道の初夏を、私たちは密かに「蝦夷梅雨(えぞつゆ)」なんて言葉で警戒することもありますが、基本的にはこの湿気のない最高の気候がトマトたちにとって「最高のごちそう」のようです。「待ってました!」と言わんばかりに、完全にリミッターを解除して本領を発揮し始めました。
そんな中、トマトの畝で「これを見落としたら今年の収穫量が絶望的になる」という、一歩も引けないデッドヒートと、感動の瞬間が同時に幕を開けました。

待望の瞬間!「第一花房」の着果という名の、トマトの「覚醒スイッチ」
毎朝の日課である菜園パトロール中、トマトの株の一番下、最初に咲いた花の塊(第一花房:だいいちはぼう)をじっくり観察していると、待ちに待った小さな変化を見つけました。
黄色い花が役割を終えてポロリと落ちたその跡に、まるで緑色の小さなガラスビーズをキュッと結びつけたような、ミニチュアの青い実が膨らみ始めているのです!無事に「着果(ちゃっか)」してくれた瞬間です。
「うわぁ、可愛い! microscopicミニトマトだ!」と語彙力を失って眺めるだけで癒やされますが、実はトマト栽培において、この一番最初の実を確実に成らせることは、その後の運命を左右するほどもの凄く重要な意味を持っています。
植物には、自分の体をひたすら巨大化させようとする「栄養生長(いわゆる思春期の肉体改造モード)」と、子孫を残そうとする「生殖生長(婚活・子育てモード)」という2つのモードがあります。トマトという野菜は、油断すると前者のモードに全振りしてしまい、茎が親指大に太くなり、葉っぱばかりが怪獣のように茂って肝心の実が全く成らなくなる、通称「ツルボケ」というヤンキー化現象を起こしやすいのです。
しかし、この第一花房にしっかりと最初の実を宿らせてあげることで、株全体に「おっと、俺はもう親になったんだ。これからは我が子(実)に栄養を送るジェントルマンモードに入るぞ」という強烈なブレーキがかかります。これにより、株の暴走が自然とコントロールされ、その後の第二、第三花房も順調に実をつけやすくなるのです。ひとまず最初の非行化を防いでホッと一安心。ここからは、この青いビーズが少しずつトマトの形へ大きくなっていく姿を、親バカ目線で見守る楽しい日々が始まります。
終わりのない戦い……「わき芽かき」という名の無限ループ
……と、のんびり着果の感動に浸るロマンチストな私を、物理的な現実へと引き戻すのが、この時期のトマトの凄まじい戦闘力です。
数日前、あれほどすっきりと「直立一本仕立て」にし、麻ひもで支柱に美しく誘引したはずなのに、ふと株元を見ると、主枝と葉の付け根(葉腋:ようえき)から、「え、いつの間に部屋借りたの?」と二度見するような太さの「わき芽」が、我が物顔でグングンと主張しています。放っておくと、わずか3日ほどでどっちが本物の主枝(リーダー)なのか分からなくなるほどの乗っ取り機構が働きます。
ここから先は、見つけ次第ポキポキと摘み取る「わき芽かき」の無限ループ(地獄の賽の河原状態)に突入します。「かわいそうだから」「もう少し育ってから」という生ぬるい同情は一切禁物。我が家では、以下の「3つの鉄則(掟)」を徹底して、毎朝トマトたちと高度な心理戦を繰り広げています。
掟その1:必ず「晴れた日の午前中」に執行する
これは家庭菜園の基本でありながら、トマトの生死を分けるポイントです。わき芽を摘み取った跡は、トマトにとっては「生傷」です。ジメジメした夕方や雨の日に作業をすると、その傷口がいつまでも乾かず、空気中の不気味な病原菌(特にかび系の病気)が「お、開いてるじゃん」と侵入する原因になってしまいます。
カラッと晴れた午前中にポキッとやれば、日中の強い日差しと乾燥した風のおかげで、夕方には傷口がカサブタのように綺麗に乾いて塞がってくれます。梅雨のない札幌の気候は、この傷口の超高速治癒にとっても最高の環境です。
掟その2:ハサミは絶対に使わず「素手でへし折る」
どれだけ切れ味の良いオシャレな園芸ハサミであっても、我が家ではトマトのわき芽かきに刃物は一切使いません。なぜなら、万が一どこかの株が目に見えない凶悪なウイルス病にかかっていた場合、ハサミを使い回すことで、切り口を介して他の健康な株へ次々と病気を拡散する「連続感染犯」になってしまうリスクがあるからです。
わき芽の根元を指でつまみ、横にコキッと傾けると、若くて生意気なわき芽なら驚くほど簡単に「ポキッ」と小気味よい音を立てて折れてくれます。この「ポキッ音」を聴くためだけに毎朝マルチの前にしゃがみ込んでいると言っても過言ではありません。もはや合法的なストレス解消法です。
掟その3:5センチ以内に仕留める「早期発見・即座に暗殺」
「大きくなってからまとめてやっつけよう」というズボラ心は、トマト界では致命傷になります。わき芽が10センチ, 20センチと太く育ってから「うおリゃああ!」とむしり取ると、主枝側の皮までペリペリッと剥がれてしまい、主幹に致命的な大怪我を負わせることになります。
株に余計なストレスを与えず、栄養のロスを最小限に抑えるためにも、まだ爪先でつまめるくらいの「5センチ以下」のうちに、気配を消して摘み取るのが鉄則。毎朝のパトロールにおける飼い主の「動体視力」が試されます。
指先に染み込む緑の勲章は、初夏の菜園だけの贅沢
青空の下、このわき芽かきに没頭していると、指先はまたたく間に洗っても落ちないファンキーな緑色に染まり、トマト特有のあの青々とした、どこかスパイシーで野生味のある独特の香りがフワッと立ち上ります。
「あぁ、今年も指がトマトの匂いになる季節が来たな」と実感する瞬間です。この香りの成分には虫を遠ざける抗菌作用があるそうですが、人間にとっては、「俺は今、めちゃくちゃ土と植物に向き合っている!」という自己満足を限界突破させてくれる最高のアロマでもあります。石鹸で3回洗っても落ちないこの緑の指は、菜園家の勲章です。
もしこの無限ループをサボって現実逃避してしまうと、トマトはあっという間に四方八方へ枝を広げ、葉っぱが重なり合う「リアル・ジュラシックパーク(緑のジャングル)」と化してしまいます。ジャングル化すると、風通しが悪くなって病気や害虫のシェアハウスになるだけでなく、奥の方にある花に日光が当たらなくなり、実の育ちも極端に悪くなってしまいます。
すっきりとした美しい「直立1本仕立て」のスタイルを死守し、これからどんどん2段目、3段目と上がっていく予定の「第二、第三花房」の未来のエリートたちに、迷子にさせることなく100%の栄養をダイレクトに貢ぐために。
しばらくは毎朝、トマトの驚異的な「一晩での成長率」との、一歩も引けない追いかけっこが続きそうです。次に皆さんにブログで進捗を報告するときには、あの第一花房の「緑のビーズ」がどれくらい立派なミニトマトの形にマフィア化しているか、今から楽しみで仕方がありません。皆さんの菜園のトマトは、もう反抗期を終えて最初の実をつけましたか?


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