トマトのわき芽を暗殺し、ナスに貢ぎ物を捧げ、ズッキーニの爆速生長とスピード勝負を繰り広げている初夏の菜園ですが、6月後半に入ると、さらなる大物モンスターが覚醒します。
ウリ科のもう一つの刺客、きゅうりです。
札幌もいよいよ夏が近づいて来ました。からっと乾いた心地よい風と強い日差しを浴びて、きゅうりたちの生長エネルギーは今や限界突破状態。緑のネットを覆い尽くし、畑の一角にそびえ立つ姿は、もはやお洒落な家庭菜園ではなく「リアルな熱帯雨林」の様安を呈しています。
今回は、毎朝繰り広げられるきゅうりとの「かくれんぼ勝負」から、油断すると現れる黄色いバケモノ、そしてジャングルを快適な風が吹き抜けるオアシスに変えるメンテナンス術までをお届けします!

ただの緑の壁じゃない、それは「迷宮(ジャングル)」
きゅうりを育てたことがある方ならきっと共感していただけると思いますが、この時期のきゅうりの蔓(つる)の伸び方は尋常ではありません。巻きひげをまるで触手のように伸ばし、隣のトマトやネットの支柱にしがみつき、貪欲に上へ上へと這い上がっていきます。
気がつけば、頭の上まで届く巨大な「緑の壁」が出現。しかし、この壁の恐ろしいところは、ただ生い茂るだけではなく、恐るべき隠密行動を行う「カモフラージュの名人」が潜んでいることです。
きゅうりの実は、葉っぱとまったく同じ「鮮やかな深緑色」。しかもトゲトゲした質感まで葉のざらつきにそっくりです。太陽の光を浴びて元気に茂る大きな葉の裏側に、彼らは音もなく、完璧に気配を消してぶら下がっています。
正面から普通に見渡しただけでは、そこに実があることなんて1ミリも気づけません。しゃがみ込み、首を傾け、下から覗き込み、手で葉っぱを一枚一枚めくって初めて「あ、ここにもいた!」と発見できるのです。毎朝のパトロールは、もはや畑での宝探し、あるいはジャングル迷宮での探索クエストと化しています。
「昨日まで本当になかった」という菜園家の苦しい言い訳
そんなふうに、毎朝かなり念入りに捜索しているつもりなのですが、それでも勝てないのがきゅうりたちのステルス技術です。
ある朝、いつものようにネットの下をのぞき込んだ瞬間、私の心臓がドクッと跳ね上がりました。
「え……? なにあれ……?」
生い茂る葉の隙間から、ドスンと重そうにぶら下がっている、太さ5センチ、長さ35センチはあろうかという黄色みがかった巨大な物体。スーパーで見かけるきゅうりの3倍はあろうかという、菜園界名物「お化けきゅうり(巨大きゅうり)」です。
あまりの大きさに、私は思わず天を仰ぎ、口の中でこう呟きました。
「おかしい。昨日までここには絶対に、影も形もなかったはずだ……」
そう、これこそが全国の家庭菜園家が毎年100回は吐くと言われる、様式美としての「苦しい言い訳」です。もちろん、昨日もそこにいたはずなのです。ただ、人差し指サイズだった実を見逃した結果、きゅうり特有の爆速生長ブーストがかかり、わずか1日のスルーでヘチマ並みの鈍器サイズへと化けてしまったわけです。
こうして収穫されたお化けきゅうりは、皮が固く、中の種も大きくなってそのまま食べるには少し厳しいクオリティ。でも諦める必要はありません。スプーンで中の種をこそげ落とし、皮をピーラーで剥いてから薄切りにし、塩揉みしてツナと和えたり、中華風のスープでクタクタに煮たりすると、トロトロ食感の冬瓜のようになってとても美味しく消費できます。失敗すらも美味しくいただく、これこそが家庭菜園の楽しさです。
ジャングルを切り裂く、病気予防の「下葉かき」
きゅうりをお化け化させず、さらに長い期間たくさん収穫し続けるためには、ジャングルを放っておいてはいけません。この時期に絶対やるべきなのが、「下葉かき(したばかき)」という散髪作業です。
地表から30センチくらいまでの下の方にある古い葉っぱは、泥はねを浴びやすく、風通しを悪くする原因になります。そして、きゅうりの天敵である「うどんこ病(葉っぱが小麦粉をまぶしたように白くなる病気)」は、この風通しの悪い湿気った場所から一気に発生します。
そこで、以下のルールでハサミを入れ、足元をガッツリと散髪してあげます。
- 地面に近い古い葉はカット: 役目を終えて黄色くなってきた葉や、地面につきそうな葉は、根元からチョキチョキと切り取ります。
- 風通しのルートを作る: 株の足元に、すーっと爽やかな風が通り抜ける「空間」を作るイメージです。風が通れば湿気がこもらず、うどんこ病の発生確率を劇的に下げることができます。
- 実の収穫が終わった節の葉も引退: きゅうりは下から順に実が成っていきます。すでに実を収穫し終わった部分より下にある葉も、徐々に光合成の効率が落ちていくため、順次ハサミを入れて株を軽くしてあげます。
散髪が終わった後のきゅうり棚は、驚くほどスッキリ。足元に光が差し込み、風がサラサラと通り抜ける様子を見るのは、人間側にとっても非常に気持ちが良いものです。これで病気を防ぎつつ、上部の新しい蔓へ栄養を集中させることができます。
夜風を浴びながら、採れたてをパリッといく贅沢
日中のパトロールやハサミ仕事で汗をかいた日の夜は、最高のご褒美が待っています。
夕方に収穫した、まだトゲトゲが痛いくらいに新鮮で、ベストサイズ(20cm前後)のきゅうり。それを冷たい水でキンキンに冷やし、まな板の上で塩を振ってゴロゴロと板ずりします。
すりこぎで豪快に叩き割って、ごま油、塩、ニンニク、少しの醤油とゴマで和えた「無限たたききゅうり」に。あるいは、シンプルに味噌を添えて丸かじり。
エアコンのいらない札幌の涼しい夜風を網戸越しに浴びながら、冷えたビールをプシュッと開け、採れたてのきゅうりを「パリッ!」とやる。この瞬間の突き抜けるようなみずみずしさと香り、誠に心地よい歯ごたえは、スーパーのきゅうりでは絶対に味わえない、まさに菜園家だけのご馳走です。
緑のジャングルは、まだまだ毎朝新しい蔓と実を伸ばし続けています。明日の朝も、葉っぱの影に隠れたカモフラージュ達人たちとの熱い知恵比べが待っています。私の目のパトロールセンサーも、ますます感度が上がりそうです!


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