「明日の天気予報です。降水確率60%、傘をお忘れなく」
このフォーマット、北海道では今やクマにも使われている。
「では、札幌のクマ予報です。今シーズン、特に対策を意識してほしいのはクママークがある『豊平区羊ヶ丘』と『三角山から藻岩山周辺』です」
天気予報の言い回しで、クマの出没を予報する。冗談みたいだが、これは札幌市と専門家が実際に発表している「クマ予報2026」の話だ。
「クマって予報できるの?」と思った人、その疑問は正しい。でも答えは「ある程度、できる」だ。今回はその仕組みを解説していく。

なぜ「予報」が必要になったのか
まず背景を。札幌市のクマ出没件数は、2017年以降は100〜200件台で推移してきた。でも2025年、その数字が363件に急増した。過去最多だ。
クマが多すぎて、「出たらどうしよう」ではなく「どこに出やすいか事前に知っておこう」という発想に切り替わったのが今回のクマ予報誕生の経緯だ。
天気予報も「雨が降ったら困るから、事前に傘を持っていく」ためのものだ。クマ予報もまったく同じ発想で作られている。

どうやって「予報」しているのか
ここが一番面白いところだ。
札幌市は、クマが木に体をこすりつける習性を利用して、クマの毛を採取している。「ヘアトラップ」という調査方法だ。木にワイヤーブラシのようなものを設置しておき、クマが体をこすった際に毛が引っかかる仕組みになっている。
採取した毛からDNAを分析し、個体を識別する。この作業を20年間続けてきた結果、なんと169頭分のクマのDNAがデータベース化された。
つまり札幌市は、「クマA」「クマB」「クマC」……と、個体ごとに識別できる状態になっているということだ。

「同じクマが何度も出る」という不思議な現実
クマ予報の根幹にあるのは、**「クマの出没は実はランダムではない」**という発見だ。
行動範囲を持つクマは、同じエリアに繰り返し現れる傾向がある。一見「無秩序に見えるクマの出没」も、DNAデータと照らし合わせると、実は同じ個体が同じ場所に出ているケースが多いことがわかってきた。
これは人間で考えると、「あの公園、いつも同じ野良猫がいるな」という感覚に近い。クマも、意外と”縄張り意識のある常連さん”なのだ。
2025年に住宅地で複数回目撃された「問題個体」の母グマも、実は2017年から札幌市がDNAを識別していたクマだった。2019年、2023年にも複数回出没が確認され、その後しばらく落ち着いていたが、2025年に再び住宅地に現れるようになった。
つまりこのクマとは、**8年来の”おなじみさん”**だったということだ。「久しぶりに出てきたな」と札幌市の担当者は思っていたかもしれない(実際はもっと深刻に受け止めているはずだが)。
このクマは2025年に捕獲され、現在は出没していない。「問題個体」を捕獲したエリアは、翌年の出没数が大きく減少する傾向があるという。
2026年、特に警戒すべき2エリア
クマ予報2026によると、特に対策を意識すべきエリアは以下の2か所だ。
① 三角山から藻岩山周辺 札幌の中心部に近い山林エリア。市街地との距離が近いため、油断しがちなポイント。
② 豊平区羊ヶ丘 北海道農業研究センター周辺。連休中にも予報通りクマが出没した実績があり、まさに「予報が当たった」エリアだ。
ちなみに厚別区も、野幌森林公園で過去にクマが出没した経緯があり要注意とされている。2019年には78年ぶりに野幌森林公園にクマが出没したが、このクマのDNAは前月に真駒内公園で目撃されたクマと一致したという。真駒内から清田区、北広島市大曲を経由して野幌森林公園まで移動したことが、DNA鑑定によって判明したのだ。
クマの「足取り」がDNAで追跡できる時代——もはやちょっとした刑事ドラマである。
「怖がりすぎない」ことも大事
ここまで読むと「もう外に出られない」と思うかもしれないが、札幌市の担当者は冷静な姿勢を強調している。
「近所に人を積極的に襲うクマがいる、こわくて出歩けない」という状況までのクマは、現在市内では確認されていない。「あの地域は危険!」と強く警戒したり避けたりする必要はない、というのが公式な立場だ。
天気予報の「降水確率50%」と同じ感覚で受け取るのがちょうどいい。降らなければそれでよし、降っても備えがあってよかった——その程度の心構えで十分だという。
AIによる予測モデルも登場
クマ予報2026と並行して、別の動きもある。上智大学の研究チームが、クマとの遭遇リスクをAIで予測するマップを開発・公開している。
過去の出没記録や人口分布、地形などの要因を分析し、エリアごとの遭遇確率を地図上に表示する仕組みだ。札幌市では中央区・東区・北区も「やや高い遭遇確率」と分析されている。
DNA分析にAI予測。クマ対策のテクノロジーは、ここ数年でかなり高度化している。
気になる情報はこちら:札幌市ヒグマ出没情報
:札幌市クマ遭遇AI予測マップ
:HBCが、札幌市と専門家への取材に基づき公表した「クマ予報2026」です。
まとめ:クマ予報2026のポイント
- 札幌市は20年間で169頭分のクマDNAをデータベース化
- 2025年の出没件数は363件と過去最多
- 2026年の警戒エリアは「三角山〜藻岩山」と「羊ヶ丘」
- 同一個体が長期間(8年以上)にわたり同じエリアに出没するケースもある
- 「問題個体」の捕獲後はエリアの出没数が減少する傾向
- 怖がりすぎず、天気予報感覚で対策に活かすのが正解
天気予報を見て傘を持つように、クマ予報を見て対策をする。北海道の夏は、そんな新しい習慣がひとつ増えそうだ。
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