「北海道でシカを見た」という体験談は、道内外の旅行者からよく聞く話だ。
でも「100頭近く」となると話が違う。
2026年6月24日、北海道の自然や野生動物を撮り続けている写真家のEmi Kikuchiさんが苫小牧市で撮影したのは、一面に広がる100頭近くのエゾシカの大群。その圧巻の光景がSNSに投稿され、「こんな光景が見られるとは」「まるでアフリカのサバンナ」という声とともに話題になった。
アフリカのサバンナ。苫小牧で。
「北海道のシカ問題って、思ってたより深刻なのでは?」と感じた人は正しい。実際にかなり深刻だ。
【クイズ】北海道のエゾシカ、今何頭いるでしょうか?
まずクイズから。
Q. 現在、北海道に生息するエゾシカの推定個体数は何頭でしょうか?
A. 約20万頭 B. 約45万頭 C. 約70万頭
正解は記事の後半で。ちなみに「多すぎて怖い」と感じた人、その感覚は正しい。

エゾシカって、もともと北海道にいたの?
「そもそもエゾシカはずっと北海道にいたんじゃないの?」という疑問を持った人もいるかもしれない。
実はエゾシカの個体数の歴史は、なかなかドラマチックだ。
明治時代初期、北海道のエゾシカは大雪と乱獲によって一時は絶滅寸前にまで追い込まれた。このままでは消えてしまうと判断した政府は禁猟政策を実施。その結果、個体数は回復した。
……回復しすぎた。
その後、エゾシカは北海道のほぼ全域に分布を拡大。近年は生息数も増加傾向が続いており、農林業被害や交通事故、生態系への影響が深刻な問題となっている。
「守りすぎたら増えすぎた」——これが北海道のエゾシカ問題の根本だ。

クイズの答え合わせ
先ほどのクイズの答えは——
C. 約70万頭
北海道庁の推計によると、北海道全体のエゾシカの生息数は約70万頭とされている。北海道の人口が約518万人なので、単純計算で人間約7人に対してシカ1頭がいる計算だ。
「7人に1頭」。思った以上にそこらじゅうにいる。
シカによる被害、想像の3倍深刻
「シカが増えて何が困るの?」と思う人もいるかもしれない。困ることは、実は多い。
農業被害 農作物を食い荒らすシカによる農業被害は、年間約40〜50億円規模。農家にとっては死活問題だ。
交通事故 北海道では年間約4,000〜5,000件のシカとの交通事故が発生している。夜間の山間部や農道での衝突が多く、車両の大破や死傷事故につながることも。「エゾシカ飛び出し注意」の標識が道内にやたらと多いのはそのためだ。
森林への影響 シカは木の皮を食べる「樹皮剥ぎ」という習性があり、木が枯れる被害が出ている。特に針葉樹への被害が深刻で、北海道の森林管理に大きな影響を与えている。
生態系への影響 シカが食べ過ぎることで、下草や低木が失われ、他の動植物の生息環境が壊れていく。釧路湿原など北海道を代表する自然環境でも、シカの食害が課題になっている。
苫小牧は特にシカが多い
今回の100頭近くの群れが目撃されたのは苫小牧市だが、苫小牧エリアはエゾシカの出没が特に多い地域のひとつだ。
苫小牧市は市街地でのシカ目撃情報を住民から収集しており、「エゾシカ交通事故発生マップ」も公開している。市街地にシカが出るほど個体数が増えているということだ。
「シカが出る」→「車にぶつかる」→「マップを作る」——この流れが北海道の現実だ。
エゾシカ肉(ジビエ)として食べる取り組み
北海道では「増えすぎたシカを有効活用しよう」という発想から、エゾシカ肉をジビエとして利用する取り組みが広がっている。
エゾシカ肉は低脂肪・高タンパク・鉄分豊富という栄養面での強みを持つ。牛肉と比較して脂質が少なく、ヘルシーな赤身肉として注目されている。道内のレストランやホテルでもエゾシカのジビエ料理が提供されるケースが増えており、観光客向けのグルメとしても定着しつつある。
「問題を食べて解決する」という、北海道らしい発想のアプローチだ。
ただし年間の捕獲数は約18〜20万頭ほど。70万頭規模の個体数に対しては、まだ追いつけていないのが現状だ。

100頭の群れを見て思うこと
苫小牧で撮影された100頭近くの群れの写真は、確かに圧巻だ。一面に広がるシカたちの姿は、北海道の自然のスケールを感じさせる。
でも同時に、その光景は「増えすぎた結果」でもある。
エゾシカは北海道の自然の象徴のひとつで、観光資源でもある。でもその数が人間社会のキャパシティを超えると、農業・交通・生態系に深刻な影響が出る。
「かわいい」と「困る」が同時に成立する——これがエゾシカという存在の複雑さだ。
次に北海道でシカを見かけたとき、ぜひそういう背景を少しだけ思い出してみてほしい。
まとめ
- 2026年6月24日、苫小牧市で100頭近くのエゾシカの大群が撮影・SNSで話題に
- 北海道のエゾシカ推定生息数は約70万頭、人間約7人に1頭の計算
- 農業被害は年間約40〜50億円、交通事故は年間約4,000〜5,000件
- エゾシカはもともと明治時代に絶滅寸前→保護しすぎて増えすぎた
- 現在はジビエ活用など「食べて解決」する取り組みも進行中
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