【コラム】街中に現れるミニ要塞群。「あんどん」の景色と、近所の先輩菜園軍師たち

家庭菜園

5月下旬の札幌。
GWに植えたジャガイモが土の中でスタンバイし、満を持してトマトやナスの苗を畑に下ろした家庭菜園家たちが、いま、一斉に「ある儀式」に没頭しています。

少し近所を散歩すれば、あちらこちらの庭先やコミュニティファームに、ちょっと異様な光景が広がっていることに気づくはずです。
支柱の四方に肥料袋や透明ビニールをピシッと張り巡らせた、ミニサイズの要塞たち。
そう、北海道の冷涼な春風から苗を守る「あんどん(行灯)」です。

冬の間、あの2メートル近い雪の壁に埋もれていたのと同じ場所に、いま、無数のビニールの筒が整然と立ち並んでいる。
この光景を見るたびに、「ああ、今年も我が街の戦闘(菜園シーズン)が始まったな」と胸が熱くなります。

「あんどん」を見れば、背後の『職人』が見える

このあんどん、実は作り手の性格が恐ろしいほどリアルに鏡のように現れます。

  • 「美しき対称型」: 4本の支柱が寸分の狂いもなく垂直に立ち、透明ビニールが太鼓の皮のようにピンと張られている。
    持ち主はおそらく几帳面な A型(あるいは元技術職)。
  • 「ワイルド実利型」: 「醗酵牛糞堆肥」とデカデカと書かれた肥料袋が、高さが不揃いの支柱で平行四辺形や台形など様々な形であんどんに仕上げられている。
    見た目は完全に世紀末のシェルターだが、防風性能は最強。
  • 「100均パッカー派」: 洗濯バサミという誘惑をハネのけ、セリアやダイソーの『トンネルパッカー』でカチッとスマートに留めている。
    現代的で効率を愛するタイプ。

他人の庭のあんどんの「張り具合」をチェックしながら歩くだけで、最高に面白いエンターテインメントになります。

突如はじまる、名もなき菜園軍師との軍議

自分の畑で「ちょっとあんどんの高さが足りないか……?」などとしゃがみ込んでいると、スッと背後に気配を感じることがあります。
振り返ると、近所の「菜園おじさん(おそらく先輩)」が、腕を組んでこちらのあんどんを凝視しているのです。

ここから、毎年恒例とも言える、極めて高度な「軍議」がスタートします。

軍師おじさん:「お、綺麗に張ったね。今年はナス、何本植えたのかい?」
私:「うちはナス2本と、トマトを少しです。おじさんのところのあんどん、パッカーでガッチリ固定してあって流石ですね」
軍師おじさん:「札幌の風は急に巻くからな。洗濯バサミじゃ、手稲山からの吹き下ろしを喰らった瞬間に袋ごとすっ飛んでいくぞ(笑)」
私:「やっぱり100均パッカーですよね。あ、ナスのあんどん、いつ頃外します?」
軍師おじさん:「夜温が安定して15℃超えるまでは、絶対に過保護なくらいで丁度いい。焦って外すと、一晩で苗がヘコたれるからな……」

冬の間、大雪の日にすれ違った時は「あ、どうも……」と軽く会釈するだけだったディスタンスが、5月になって土が動き出した途端、一気に「戦友」の距離感まで縮まるから不思議です。
「手稲山からの吹き下ろし」という共通の敵がいるからでしょうか。

試される大地で、苗を甘やかす贅沢

日中は20℃を超えて初夏の陽気になっても、夜にはガクンと一桁近くまで冷え込むのが札幌の5月。
本州の菜園マニュアルに書かれている「5月上旬に定植!」を真に受けると、北の大地の洗礼を受けることになります。

だからこそ、私たちは我が子を包むように、必死にあんどんを立てるのです。
あの街中に乱立する白い袋の並びは、厳しい冬を耐え抜いた札幌市民たちの、「短い夏を1秒たりとも無駄にせず、トコトン楽しんでやるぞ」という静かな、しかし強烈な熱量の現れなのかもしれません。

今日の教訓

「近所のおじさんのあんどんが外れるまでは、我が家のあんどんも外さない。」

先輩軍師たちの背中(とあんどん)をカンニングしつつ、
今日も我が家の過保護なトマトたちは、あんどんの中でぬくぬくと活着のサインを出しています。

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